今日の実験は乗り切った。
明日は、ゼミで発表である。今年始めにNature Cell Biologyに出たK岩研の論文を、学会で聞いた話と、あとちょっとデータベースで検索した話と、いろいろ絡めて話すつもりである。
GCS1, Generative Cell Specific 1。ユリLilyの花粉が持つ精細胞が、胚珠の中の卵細胞と融合するために必要な因子として発見されたタンパク質だ。オスのしるし、とでもいうべきか。論文は、このタンパク質をつくるための遺伝子を破壊されると、植物は種子を作れなくなることを綿密に調べている。
どのように種子ができるか、説明しよう。花粉がめしべにつく。めしべの中に、花粉が生殖のためのパイプを挿入し、のばしていく。パイプはやがて、種子のもととなる胚珠に到着する。パイプが胚珠にずぶっといく。このパイプをとおって、精細胞(これが動物では精子にあたる)が胚珠の中の卵細胞(動物では卵子である)とめでたく融合する事ができる。
さて、この流れの中でいくつか関門があるわけだが、論文の著者が確認したのは、パイプはうまくいく。胚珠に這い入る、これもうまくいく。だが、どうやら、GCS1のぶっ壊れた精細胞は、パイプを通過して卵細胞の前にきてもうろうろするだけで、結局種子ができずじまい、となる。このへん、さらっと書いてしまっているが、実験で確認するのはけっこうホネである、わかる人は当然わかる。
この論文がすごいところは、このタンパク質が、いろいろな種類の生物にあることを示したところだ。ユリだけではなくて、藻にもあるし、変形菌(あるいは、粘菌、と言い換えれば、南方熊楠との関連で知る人もあるかもしれない)にもあるし、マラリアの病原虫Plasmodiumにもある。哺乳類など高等動物では見つかっていないけれど、それでもこれだけ広汎に使われているという事はそれだけで興味深いものだ。