すべてをのみこむ系統樹

全力で樹ばっかり追っかけた「生物系統学」isbn:4130601725、著者が一般の読者に向けて語った、系統樹の伝道書である。
歴史科学を基礎づける考え方(哲学)と、人間が歴史科学を表現しあう強力な助けとなる系統樹リテラシーが、この本のメインテーマである。
進化生物学を含めた一般の歴史学は、史料をテコにいちばんもっともらしい説明を探る「個別の科学」を中心とする。それは、「一級科学」として君臨してきた「普遍法則の科学」たる物理学・化学とは序列関係にあるのではなく、互いに相補しあうものである。この図式はとてもすっきりしていたので、永くわだかまっていた私の中での両者の位置づけができ、とてもよかった。
そして総ての個別科学が一本の樹として描かれるという野望が、ふっと顔を覗かせるところも面白い。一冊を通じて、軽快で鋭敏なユーモアが織り込まれているのもいい。諸学へと分断されていた歴史の科学は重なり合い、学統や著者の半生とも絡み合って色あざやかな織物に編み上げられている。