産休はなぜあるのか

  • [女性][社会]君は産休を有給か何かだとでも思っているのかね

これは、実は(男性中心的な)社会構造の進化と密接に関連しているのではないかと考えたことがある。
着想は、じつに個人的なものである。仮にLさん(女性)としておく。Lさんが妊娠した。Lさんは、非常に有能な人であった。仕事も、恋愛も、しっかりこなしていたのだろう。万事、手を緩めなかったのかもしれない。早い段階で、出産には至らなかった。
受精から出産までは、母体にとって、注意を要する時期となる。そして、特に、最高度に注意が必要となるのが、妊娠3ヶ月までとも聞く。Lさんは、おそらく、その時期に仕事のストレスを受けたのだろう。たとえそのストレスが、平常通りの仕事のものであったとしても、身体的には妊娠という状態を維持する許容量を超えたのだろう。
してみると、抱えた胎児が巨大になった臨月ちかくが産休の対象となる以外にも、この妊娠3ヶ月というのも、産休とおなじ視座で休養期間をもうけたほうが、ヒトの繁殖にとっては望ましいのかもしれない。
ちょっと別の問いから、この問題に入り直してみよう。
どうして男はいかついのか。
以前、どうして女性が華奢で男性が剛健なのか考えた。というよりも、どうして男性が重い荷物を運ばせられたり、高いところにあるものを取らされたりするのかということを考えていた。というのは、自分が背が高くて、ごついので、やれ棚の上のものを取れだのやれどこそこの棚を運べだの、力仕事をよくさせられるからである。もちろん、現状、それは仕方のないことではある。
生理学的にはホルモンの効果だろうと思う(動物生理学は勉強したことがないので知らない)。そういう事を一切考えなかった頃は、文化的なものではないかと思うこともあった。つまり、男性は、なにかにつけて肉体的行動に駆り出されるので、自然と肉体がゴツくなるのではないか、と。女性もガンガン子供のうちから徴用すれば、同じようにゴツくなるのではないのか、と。でもホルモンだったら概ね遺伝的に制御されているわけで、別に文化的に制御されていることを持ち出さなくてもよい。
これは行動・活動の問題だなと思った。どうして男性に肉体的(に厳しい)活動の属性が付与されてしまったのか。
どうして生理学的にホルモンの調節が働くようになったかという事を考えよう。これが性進化学である(と思う)。では何が違うと言って女性……進化学的にはメス……は、子を産む。哺乳類は、けっこう子を産むのが面倒である。受精着床後しばらくは非常に繊細な時期があり、ここでメスが行動・活動することは、(あくまでこの話の範囲で)生殖行動=適応上、圧倒的に望ましくない。それでオスがその間の行動・活動を担った。
数理モデルを立てればわかることだろうと思う。哺乳類の架空生物である「マモ」を例にとって考えてみよう。マモは、採餌行動と繁殖行動の2つしか行わない。そして、マモは、半数体である(集団遺伝学はだいたいこういうモデルを立てている。授業で習った)。このマモの、メスの妊娠時の採餌行動が、一つの遺伝子の違いで決定しているとする。
性差によって、妊娠時の生活行動が異なるマモがいる。このマモのもつ妊娠時の採餌行動遺伝子がAだとしよう。オスがメス妊娠時の採餌行動も担うとしよう。これは「性差モデル」である。
対立するのは「無性差モデル」である。無性差モデルのマモは、Aのかわりにaを持ち、あらゆる時期において、オスメスがいっさいの区別なく自らの食糧を確保する。妊娠中のメス個体も例外ではない。これは、Lさんの事例を参考に、出産にいたる割合に影響をあたえるとかんがえるのが妥当である。仮に、妊娠中のメス個体が食糧確保をすることで、出産成功率が20%さがるとしようか。
哺乳類で、性によって生殖に関する役割が異なることを、所与とする。オスは精子を供給して遺伝的多様性を維持する一方で、それもメスによって妊娠期間が担われている。
カップルの一つ目のアルファベットをメス、二つ目をオスとしよう。四通りのカップルができあがる。AA, Aa, aA, aaである。
AAは、メスが妊娠中は自ら採餌行動を行わず、オスによって食糧が供給される。メスは採餌行動を行わないから出産成功率はさがらない。
Aaは、ちょっと悲惨で、オスはいつでも自分の食糧しか獲得しないが、メスは妊娠中に自身の食糧を獲得しない。つまり、飢える。そしてこのカップルは子孫を残すことができない=アウト。
aAは、オスがメスの妊娠中に食料を確保するのに加え、メスは妊娠中でも食糧を確保するので、飢えることはない。けれども、前述の通り、メスが採餌行動を行うので、出産成功率が下がる。
aaも、同様に、メスが採餌行動を行うから、出産成功率が低下する。
こういう事を考えていくと、性差モデルが進化的に安定であるといえそう(な気がする)。してみると、オスというのはこのマモにあって、ずっと採餌行動をし続けることになる。採餌能力の高いオスが、繁殖行動上も有利となる。肉体的な性差が進化的に拡大する。性差を織り込んだ行動パターン(文化)が形成される。
Q.E.D.
エロと政治は書かないつもりで、これまでブログをやってきたが……思いっきりPCマターに踏み込んだな、それも、両方がグランドクロスする地点に。
ところが、ここでは終わらない。軽く書いてこの項を終える。
当然ながら、マモは、ヒトではない。上述の性差モデルの進化的安定性は、ヒトの男女に身体的な差があることをいくぶん説明できる。その男性優位の文化についても、わずかに示唆を与えるだろう。だからといって、優位性をヒトに所与のものとするわけにはいかない。ここで所与としたのは、本質的には、繁殖行動上の差異……すなわち「メスが妊娠し出産する」という点……だけである。いまのヒトには、いかなる文化をつくることも許されている。性進化学徒として口にすることができるのは、性差文化が(とりうるうちのひとつの)進化的に安定な戦略であるかもしれないことを織り込んだうえで、人間はこれをサポートしていく体制を組むべきだということだけである。