怒り

いましがた、袋のスタバで「右であれ左であれ、わが祖国日本 (PHP新書)」を読んでいると、隣の席にカップルがすわりました。
通路から奥側には女の子がすわりました。チェックのワンピースと黒いタイツに、ピンク色のハーフコートを着たその女の子は、ちょっと下顎を突き出していました。男の子の方は、実直な大学生といった風でした。工学部かな、と思いました。
青年が最初に口を開きました。
「疲れたね、いや、歩いたし、やっぱり脚が痛くなったぐらいだけど」
「うん、そうだね……」
そうして二人は飲み物をすこしずつすすりながら15分ほど無言のまま、テーブルを挟んですわっていました。それは、「向かい合う」という言葉さえ不相応でした。
「何か怒ってる」
「怒ってないよ。
疲れて眠いんだって」
女の子は傍目にも不機嫌でした。青年の言葉は、考えられるうちでもっとも凡庸でもっとも拙いものでした。
「何か怒ってるでしょ」
「何が?
何もないって」
そして女の子が上着を着て立ち上がり、青年も続きました。