- 作者: 藤原正彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1994/06/29
- メディア: 文庫
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すでに「若き数学者のアメリカ (新潮文庫)」と「国家の品格 (新潮新書)」は読んでいました。そして、この2著を橋渡しする特徴が「ケンブリッジ」には見えました。
ケンブリッジに花咲く人間模様が魅力的です。基本的には変な数学者の先生方、近隣の人々で、そんななかに息子がらみのバトルも若干あり、面白くて一気に読むことができました。
役に立たぬことこそという高邁な精神、服が擦り切れていても気にしないバンカラな気風に心惹かれます。
「アメリカ」のときはただの駆け出しのエロ数学男だったのが、「ケンブリッジ」では数学者として活躍するエロオヤジになり、「国家の品格」ではただのオヤジになります。
私は「国家の品格」の内容についてはおおむね賛成します。しかし、その内容が明示的に世に出てしまうことには危惧をおぼえます。すべては密やかに行われねばなりません。
この本が世に出たというのは、平成初期の、まだ異国情緒というものが売りになった時代なのでしょう。それを別にして考えると、人類普遍価値を重んじよという圧倒的な正しさと、なぜかそこで伝統として武士道をことさらに持ち出してしまうような危うさ、限界までがこの本で露わです。
解説では、英国のオーケストラに、日本人のバイオリンソリストが出演したのを藤原が聴きに行ったときの描写が持ち上げられていました。バイオリンソロが始まるまでの前奏の間、藤原はソリストへ「日本がんばれ」と応援する意識を集中させていた、前奏は全く聴かなかったと書いています。私は思います:ちゃんと前奏聴けよ。それが余裕というものです。
街で偶然会った、ラガーマンの学部生にパブで飯を奢ったときのことが印象的です。
彼は立ち客であふれる周囲などには目もくれず、大ジョッキでぐいぐい飲む。料理のほうも私の三倍は食べた。私はほとんど得意の絶頂だった。バカデカイ男に、奔放に飲み食いさせることが、これほどの快楽とは知らなかった。「相撲取りにおごることは金持の最高の道楽」と聞いたことがあったが、よくわかる気がした。(pp.262)
私は鯨飲はしません。専ら喰うばかりです。