殺シ屋鬼司令II

読書と研究について書いてきました。最近は万年筆で書く快感にひたっています。当ブログでは、Amazonアフィリエイトに参加してリンクを貼っています。

知的な……雑談

過去の入試問題に使われました、という触れこみでしかお目にかかったことがなかった「思考の整理学」を、遅ればせながら読んでいる。
読んでいて、ああ、ふむふむ、聞いたことある、という話がほとんどなのだが、さすがlifehack本の祖とはいわぬまでもハシリであって、やはりよい洞察に満ちている。

俗世を離れた知的会話 (pp. 158)

  • 気心が知れていて、しかも、なるべく縁のうすいことをしている人が集まって、現実離れした話をすると、触媒作用による発見が期待できる。
  • (ゴシップを避け俗世を離れるコツ)
    • 身近な人の名、固有名詞を引っ張り出さない
    • 過去形の動詞でものを言わない

なぜか書店員が帯に登場してここ3週間ぐらい店頭でお目にかかった

「学生時代に読んでいればと思いました。」
はっきりいって、高校生や学部初年度で、読んでもわからない。そして、若年の読みに難があっても、気に病む必要はない。なかなか理解できないことが多いからである。それでも読書をしたいと思う若人の香ばしさを、私はいつも好もしく思っている。私であれば彼/女らに、黙ってこれを差し出す。

80年版 岩波文庫解説総目録―1927~2006

80年版 岩波文庫解説総目録―1927~2006

目録でも読んでいればいい。著者と題名だけでも知っていれば上等だ。気に入ったのがあれば手に取ってみればいい。
ところで、なぜ「思考の整理学」にこんな帯が出た? おそらくこれが出るからである。
「読み」の整理学 (ちくま文庫)

「読み」の整理学 (ちくま文庫)

私も気になっていた。で、さっき池袋のリブロでちら見した。内容としては、「思考の整理学」の「既知・未知」という章を敷衍したものだ。私も「既知・未知」*1には「おっ」と思ったので、買おうと思ったが、すぐに思い直してやーめた。「読みの整理学」では、アルファ読みとベータ読みが提示されているらしい。「思考の整理学」では知的活動におけるA/B/Cというのが提唱されている(pp. 98)。

  • A: 既知のことを確認する
  • B: 未知のことを理解する
  • C: まったく新しい世界に挑戦する

このA/B/Cが、読書に関係づけて論じてある。「読みの整理学」を読んでいないのでわからないのだが、おそらく、アルファ読みとA読みが対応して、ベータ読みにはB読みとC読みが合わさって対応する。私も、「思考の整理学」の、このA/B/Cのくだりを見たとき、「B/Cの厳密な線引きは難しいな」と感じた。実際、一章のなかばほどで、「CをBの中へふくめて、……」と、ヘタレている。
これがもし、こうであれば、納得しやすい。

  • A: 「自分が」既知のことを確認する
  • B: 「自分が」未知のことを理解する
  • C: 「人類のほかのだれにとっても」まったく新しい世界に挑戦する

そうすれば、このA/Bがいわゆる「勉強=学習」ということになり、Cが「研究」として解釈できる。
それはともかく、私がこの「既知・未知」一章に感銘を受けたのは次の下りである。201頁から202頁にかけて、

…きわめて多くの読みの指導が、B読みを可能にしないまま、浅い意味での文学読者を育てるに終わってしまっているのである。
これにはただ、言語教育の上で遺憾であるばかりでない。ひろく、われわれの思考、知的活動に大きな影響を及ぼしているのである。おもしろい文章というのが、ほとんどストーリーのあるものという日本の傾向は、抽象的理解力のひよわさと表裏をなしている。どうしてもゴシップ的興味がはんらんする。

どうしてもセカチュー恩田陸伊坂幸太郎宮部みゆきを思い出す。たとえば「凶気の桜 (新潮文庫)」を実家に帰った折にパラパラと読み直していたのだけれど、読むに堪えなかった。最初読んだときはストーリーをたんに追っていたのだ。ただ、現在の主流はもはやストーリーによるゴシップですらなくて、たんに「固有名詞」、キャラでしかつながらないのだったか。
こうある。(pp. 203)
「日本における漢文の素読は乱暴のようであるが、一挙にC読みの本丸に突入するような試みで、実際に、すぐれた未知を読む読者を育成したと考えられる。」
いわゆる「カラキョウ」というのもこの「ストーリーあるもの=おもしろい文章」のわく組みの中に落ちる。落ちるけれども、固有名詞を知っているだけ、共通の話題ができていい。さらに、たとえはじめはストーリーを追うにまかせるだけでも、有為の読者の中にはちゃんといろいろに結びつけて糧にするひとが出てこよう。

*1:なぜかガチ・ムチということばがあたまに浮かぶ。