仕事のOS:語学力は反復とか記憶以前に感受性:DESIGN IT! w/LOVEを読んで深く共感しました。
単語を暗記していくときに気をつけていたのは、未知の単語に出会い、意味を見たときに、それが「自分にとって」良い単語なのか、悪い単語なのかを感じることでした。そのかりそめの善悪が、記憶に残る助けとなるのです。
たとえば、高校時代ですが、aggressiveという単語に出会ったときです。これは「攻撃的な」「好戦的な」「積極的な」という意味を持つことばです。訳しわけかたはさまざまにあります。しかし、この意味のイメージには、共通部分があるはずです。意味はさまざまでも、文脈によってイメージは変わってきます。暴力を蛇蠍のように嫌う平和主義者であれば、aggressiveは多くの場合「悪い」単語でしょう。一方、私は「暴力は遍在する作用である」と思っているので、aggressiveはとても「良い」単語です。
人との出会いもちょうど同じようなものです。初対面ではとても乱雑で悪印象しかなかったと言う人でも、それは悪印象という形で記憶に残りやすいでしょう。もちろん、その作用は望ましくありません。いつまでも気が滅入るからです。悪印象を与える人からは一般にさっさと去るべきです。ただし、必要性にかられてつきあいを続けていると、それなりに見どころもあるように思えます。人とのつきあいがこうして個個に歴史を紡いでいくものであるように、単語とのつきあいもまた長期にわたるものです。まして単語は、人間の友人たちよりもはるかに長く生き続け、変わり続けている、尊敬すべき存在です。
隣り合う男女が恋仲に陥りやすいのとちょうど同じように、単語との記憶も反復によって積み重なっていきます。単語を使ったその時々に感じたことが、単語とのつきあいの歴史にはさみこまれていくことになります。
孫引きになりますが、「語学力というのは反復とか記憶以前に感受性だ」(原研哉)というのは上記の理由で半分支持しつつ半分は反発します。感受性と反復と記憶はそれぞれ別のカテゴリーに属します。感受性は態度、反復は行動、記憶は価値体系にそれぞれ属するからです。いうなれば、人が或る感受性を持って反復という行為をすることで草原に道ができるということです。
私はずいぶん昔に「単語帳は合コンのようなものだ」と絶叫したことがあります。そりゃなんだという人もあるでしょうが、これは長文読解の中で出会う単語を習得するのがナンパみたいなものだというのに対応するものです。日常生活の中で会う人とも、電話をかけたり手紙を書いたりデートしたりしないと望む関係になれないのと同じように、単語も毎日見返して、使ってみなければとっさのときに使えるようになりません。「使用語彙」に入らないのです。日常生活は見慣れた顔ばかりで心ときめくような出会いが実に希薄ですが、合コンではフレッシュな顔ぶればかり。楽しいですね。
よく「単語は暗記してはいけない、文脈の中で推測する力を養わなければダメだ」という人があります。この意見は傾聴しつつも丁重にかつ断固として排除すべきであると思います。なぜなら、単語が暗記してなければ推測することすらも不可能なのが凡人であるからです。大学受験勉強のとき、目安として「1,000 words につき 10 words わからない単語があったら読めない」と言われました。これは実感にも即しています。
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