TAIL-PCR雑感

ゲノムのウォーキングが私の博士課程における中心的な作業である。
何度も書いているようにこれまで壁にぶちあたり続けている。ほとんどメゲている。どうすればいいんだろう。どうにもならんじゃないか! ベクターにどの断片が入るかはランダムなのだし、プローブの特異性もランダムだ。ランダムネスは実験科学の希望でもあり絶望でもある。私には絶望の貌しか見えていなかった、先週までは。
そうなのだ。先週、絶望のキワミに至り、少し新たな方法を模索したいと思った。ゲノムライブラリをベースにしたクロモソーマルウォーキングで壁にぶち当たったとき、二つほどかなり簡単な手法がある。inverse PCR (iPCR)とTAIL-PCRである。

2012年12月1日追記・最近はRESDA-PCRというのもあるらしい

実は今の研究室にある酵素類(制限酵素&ライゲース)で、inverse PCRに成功していない。理由は追求していないのだが、ひょっとすると、酵素類が失活しているのではないかと思っている。そういうわけで、あまりiPCRをやりたくなかった。
するとTAIL-PCRになる。こちらについては、なんだか意味の分からない方法で、しかも先輩づてに聞いた話では、何でも「マジで職人技」らしいという。まずは調べてみようと思って元論文(Liu and Whittier 1995)にあたった。散々脅されているのでこわごわである。どんな謎があるのかと。
読んでみて、TAIL-PCRというのは、ゲノムの中の"適当な"位置にアニーリングする縮重プライマーを相手に、タンデムに設計した3つの特異的プライマーでネストPCRしていく方法だった。縮重プライマーは16 bp程度であり、Tmは非常に低く、そしてここにTAIL-PCRの機能する根源がある。
TAIL-PCRはThermal asymmetric interlaced-PCRの略称である。温度を非対称的に並べてつなげたPCR。どこに非対称性があるか? 特異的プライマーと縮重プライマーのTmの間にある。この、魔術のようなサイクルを、「スーパーサイクル」と著者は呼んでいる。どういうサイクルであるかは、元論文か、著者本人が「植物のPCR実験プロトコール」に書いているので、参照されたい。
この「植物のPCR実験プロトコール」に従って実験してみようと思う、と先輩に尋ねたところ、縮重プライマーを持っているという。以前、TAIL-PCRの利用を検討したというのだ。先輩は結局iPCRをしたのでTAIL-PCRをやったことはないという。渡りに舟と、特異的プライマーをさっそく設計・注文した。
TAIL-PCR法ではPCRをネステッドして3回行う。それぞれ4-5時間かかる。プロトコールには「一日で終わります」とか喧伝されているが、なかなか難しい。朝7時から始めれば、夜10時ぐらいには産物の確認・切り出しが可能にはなるのだが……
ともあれ、先週末に最初にやったTAIL-PCRでは、3つ候補として用意された縮重プライマーそれぞれでいくつかのバンドが出た。これを切り出したのが日曜日で、配列を確認したのが月曜日である。きっちりと「未踏の領域」が出てきた。思えば、先週の水曜日に決意してから一週間たたずに未知配列が出てきたことになる。ちょっと感動した。
感嘆しきり、それにつけても謎がキワ立つのは縮重プライマーである。ぞぬプライマーとでも言いたいような、どうやって設計したのか本当に謎である。