殺シ屋鬼司令II

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広がった前途・避けえぬ死。『ミトコンドリアが進化を決めた』

ミトコンドリアが進化を決めた

ミトコンドリアが進化を決めた

たぶん @iwasakiw から最初に教わったのだと思うけれど、今になってしまった。もっと早く読んでおくべきだった。
読んでから、時々思い出して考えてみたり、また読みなおしたりしている。それぐらい思い入れはある。
タイトルが示すとおり、生物が進化する中でミトコンドリアが果たした役割を追求し、全体像を描き出そうという意欲がみなぎっている。ミトコンドリアは細胞内共生でできました、ミトコンドリアが酸素呼吸でエネルギーを作ります、ミトコンドリアは母親から伝わります、ミトコンドリアがプログラム細胞死(アポトーシス)を起爆させます……なんて、生物学者にとってはおなじみのトピックだろ? とあなどるわけにはいかない。その全てを徹底的に追求し、それがどうして達成できたのか? 本当にそうか? 他のことは考えられないのか? 果ては、なぜ真核生物は多様化し巨大化したのか? なぜ性があるのか? そして、なぜ死ぬのか? という、人類が日常で疑問に思うコアなトピックにディープインパクトしている。
トピックは極めて専門的だけれど、自分の専門性の多寡に読者一般が怖じる必要もない。知識はすべて著者がていねいに提供している。あとは導きにしたがい丹念に読み解きながら、著者と共に問題を考えていけばよい。逆に言えば、私自身は専門的な知識はある程度あったと自負しているけれど、歯ごたえは十分あった。定説は掘り返され掘り下げられ、新しい視界が一章ごとに拓ける。登場する説も当然ながら最終的な結論ではありえない。しかし、そのどれもが極めて説得的で合理的だ。*1
「なぜ真核生物は多様化し巨大化したのか? なぜ性があるのか? そして、なぜ死ぬのか?」
この問いに知的好奇心のある全てのヒトに、この本を読んで欲しい。

*1:2013/06/14追記:共生性オルガネラのゲノムへの個体「内」での突然変異に耐え切れなくなったというか、突然変異をクロックパルスにしたリセットの時限爆弾が「死」で、一方で個体「間」での変異のダイバージェンスの統制を取るのが「性」(=母性遺伝)、それもこれもそこにゲノムがあるからで、ではゲノムがなぜオルガネラ内にとどまっていないといけないかというと、諸オルガネラゲノムと核との情報の非対称性から、各オルガネラ機能のコアタンパク質はその中で産生し修復しないと破綻するというところまで徹底的に論じられていて、今に至るも人生で読んだ最高の本だった。