殺シ屋鬼司令II

世界一物騒な題名の育児ブログです。読書と研究について書いてきました。このあいだまで万年筆で書く快感にひたっていました。当ブログでは、Amazonアフィリエイトに参加してリンクを貼っています。

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初心者が見落とす4つの実験の勘所|論文あるのみ

Control, reproducibility, optimization and lab notebook
Fantastic four - young students ignore while experts adore -

ここのところ、これまで大学院生のあいだに散発的に行った実験をまとめ、なんとか統一的な視座を表明しようとしている。

散発的なものだから、データはハードディスクの中でバラバラに入っているだけではない。さまざまなバージョンのものが重複しておいてある。しかも、それに対応する実験ノートの記述もバラバラで、何冊もの実験ノートをニシヘヒガシヘ、なんとかして「完成まであと一歩」に漕ぎ着けた。*1

大学院にはいりたての年若い生物学徒には、是非、以下の四件は強調してもしすぎることはない。

  1. コントロール(対照区)
  2. 条件検討
  3. 再現性
  4. 実験ノート

「どれもあたりまえじゃないか」

「いくつか相互におなじものじゃないか」

と、賢い方は仰るに違いない。しかし、私はここで、いま賢さを涵養している最中の初学者に向けて書いている。

実際この四つは、私が見るところ、実験のタツジンと呼べる人たちがおろそかにすることがなく、また、初学者ほどその重要性に気がつかない。そしてあとから後悔する。そういったものだ。



特に、あらゆる実験の細目を、Excelのような(私ならGoogle Docsを使うが)スプレッドシートに、通し番号をつけて記載していくのが、これからはいいのではないか。プライマーオリゴや、プラスミドコンストラクトの整理にExcelを利用している人は少なくない。それをすべての実験に適用してはどうかという提案である。
そしてこれが「構造化する」ということの内実である。繰り返し言うように、構造化されたものだけが知だ。
構造化のための戦術は、

  1. 図を描く、
  2. 表を作る、
  3. 文章を書く。

つまり論文を書くということに等しい。論文だ、論文あるのみ。
しかし、もう一つ、方法がある。emerging trendであり、圧倒的に正しい方向性としては、それをいかに「機械可読的」にするか……つまりコード化・記号化して「構造」そのものにするか……
それは生物学に限らぬ。
およそ(人文を除く、社会科学も含めた)広義の「科学」すべてについて、当然妥当すべきである。ここで言っているのはつまり、「文体」は否定されなくてはならない、ということである。

*1:【2023年10月13日追記】結果として出たのは次の論文である。 Distribution of the Sex-Determining Gene MID and Molecular Correspondence of Mating Types within the Isogamous Genus Gonium (Volvocales, Chlorophyta) | PLOS ONE ゴニウムというボルボックス系列緑藻の「属」に含まれる種で、両性が国立環境研究所に保管・継代培養されているサンプルを取り寄せて、性決定遺伝子のオーソログを同定していた。「ときどき思い出したように」 やっていたので時系列では断片的だった。また、不運だったのは、当初使用していた縮重プライマーで1種不成功が続いていて、歯に小骨が刺さったような感じだった。2011年末に論文をひととおり書こうとして、その1種については「今後の研究の発展で成功する道が拓けるかもしれない。縮重プライマーを再設計したり、全ゲノム配列を解読したり……」という文章をひとまず書いたのだが、そこではたと思いとどまり、「……ではいまなぜ成功しないのか? 成功するためのありうる方法はこうしていまいろいろ考えつくんじゃないか。全ゲノムを読むのはともかく、縮重プライマーぐらいどうってことないだろう……」と思って縮重プライマーを再設計したらあっさりと成功したため、心残り無く無事書き上げることができたのはいい思い出である。この記事は、その実験には成功し、文章、特にマテメソを四苦八苦しながら書き上げようとしている頃の述懐であるとご理解いただきたい。