殺シ屋鬼司令II

読書と研究について書いてきました。最近は万年筆で書く快感にひたっています。当ブログでは、Amazonアフィリエイトに参加してリンクを貼っています。

麻生幾『38°C』を再読するとコロナウイルス対策が書いてあった

38℃ 北京SARS医療チーム「生と死」の100日

38℃ 北京SARS医療チーム「生と死」の100日

  • 作者:麻生 幾
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/01/10
  • メディア: 単行本
むかし読んだ、麻生幾『38°C』に、北京でのSARS対策医療チームのことが書かれていたことを思い出して、読んでいた。
アマゾンで見ると絶版か品切で、現今の情況下であろう、中古価格が高騰していた。

コロナウイルスというウイルスの性質で自分が最近わからなかったのは

  • 医療関係者はうがい・手洗いのことばかりいうし、ふつうのマスクはあんまり意味がないという
  • でもマスクは品薄になっている
  • エアロゾル飛沫感染するとも言われているがよくわからない

だった。

そういうことがよくわからなかったのだが、この本に特別寄稿されている、角田隆文医師がSARS対策のことをまとめた文章でずいぶんイメージできるようになったので抜き書きをした(読み上げて音声入力したものを誤字を直した)。

角田隆文「SARSへの大いなる誤解」
麻生幾『38°C  北京SARS医療チーム「生と死」の100日』pp.205-211

……さて「隔離」について話を進めましょう。
「ライノウィルス」(風邪を引き起こす代表的ウィルス)を始めとする、いわゆる「風邪症候群」の起炎ウィルス(原因となるウィルス)が感染していく仕組みは、くしゃみや咳などで1メートル以内のウィルスが浮遊することで感染する「飛沫感染」よりも触る、飲むと言う方法で感染する「接触感染」である‐ ‐まず、このことを頭に入れていただく必要があります。
ゆえに、こういった疾患に感染しないための方法は、まず何より「手洗いによる感染防止対策」が最も有効であるーーこの事実も非常に有効です。
非常に気になる事は、感染症について様々な議論がなされる時‐ ‐今回のSARSでもそうですが‐ ‐いつも新しいウィルスが登場すると「空気感染」ではないのか、と言う話が飛び交います。しかし、そんな噂に振り回されることより、はるかに重要な事は、とにかく「手洗い感染対策」を行うことなのです。
今回のSARSでは、アパートの上と下の住人が発病したことなどから、空気感染が疑われ、「陰圧病室」(外気より部屋の中の気圧が下がっていることで、部屋の中の空気が漏れないようにされている)への隔離が進められました。つまり「空気感染」への対応が行われました。
ところが現実はどうでしょう。ほとんどの国と病院ではーー突貫工事をしてSARS専門病院を建てた中国のケースを除き‐ ‐「陰圧病室」は準備できなかったのです。ハノイではむしろ病室の窓を大きく開けて対応したのです。
では日本はどうでしょう。読者の中にはいぶかる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、空気感染をする結核の患者を治療する病院では、またわが国の法律の上でも、病室の窓を開けて換気することを推奨しているのです。
SARSの恐ろしさを知ったわが国では2003年10月に法律を改正し、SARSを「1類感染症」の分類に入れることにしました。
そのことによってもしSARS患者が発生した場合、「陰圧病室での隔離」が原則となり、必ず閉め切られた空間で診療することになったのです。
これは患者の診療する医師や看護師、そして救急隊員たちを危険にさらす結果となりました。何しろ、いわばウィルスが充満してとどまっている“汚染濃度”が高い空間に、医療関係者が放り込まれることを意味するからです。
「陰圧病室」のことばかりが先走りしていますが、今こそ、冷静な知見が求められるべきでしょう。

さらに“常識”にまで飛躍している「誤解」は、「マスク」と言う問題も存在します。
SARSを報道するメディアでは、必ずと言っていいほどマスクをつけた人々の映像を流し、そしてその「マスク」についての安全性についても様々な意見が噴出しています。
WHOは、SARSアウトブレイクが発生した当初、患者に「N95認証マスク」という高性能のマスクをつけさせるよう勧告しました。ところがここで不可思議なことがあります。
この感情がつける「N95認証マスク」についての“効果“や“信頼性“について、WHOからは新たな分析はほとんど発信されていないことです。
「血液中酸素飽和度」(肺の活動を知るデータの1つ)が低下する、いわば「呼吸困難」を訴えている患者が、健康な人でも息苦しさを感じるマスクをつける事は容易ではありません。しかも、中国などでは、酸素マスクの上に、さらに「N95認証マスク」をかぶらされている患者の姿をテレビニュースで数多く見かけましたが、全く医療の目的とそぐわないという他はありません。
N95認証マスク」とは0.3 µの粒子を95%カットすると言う強力な遮断能力を持っています(SARSウィルスそのものは、0.2 µだが、水分が付着したりするので効果があるとされている)。
ところが多くの人々が‐ ‐医療関係者であっても‐ ‐「誤解」しているのは、マスクの性能として、顔と鼻などとの厳重な密着性が要求されている、と言うことを忘れている点です。「N95認証マスク」の能力を発揮させるためには、マスクと顔や鼻の間にものを挟むことなどは絶対に許されません。また逆に、密着性を高くすれば、健康な人でも息苦しさを感じて長時間の装着はできないのです。
その後、WHOからは「N99」(0.5 µの粒子を99.95%カットする)と言うマスクまで飛び出しましたが、SARS発生から1年以上経った今、臨床医たちによる冷静な分析を行っている文献の中に、「サージカルマスク」(手術用の簡易マスク)でも充分だと言う記述も見られます。
重要な事は、「N95認証マスク」が本当に必要とされたかどうか検証すべきである、と言うことです。
N95認証マスク」をつけず、サージカルマスクだけで感染してしまった人々は、おそらく、サージカルマスクを素手で触れるなどの後、手洗いが不十分だったからだ、と言う意見もあります。
それを物語るのは、SARS患者発生国の中で、カナダを除いたヨーロッパなどの先進国でのケースです。そこでは医師や看護師たちへの院内感染など「二次感染」があったと言う報告がほとんどなされていません。ベトナム、カナダ、シンガポールやフィリピンで医療従事者の感染率を引き上げているのは、WHOから警告が発せられたときにはすでに感染が拡大していたからです。その後は「輸入感染者」が患者のほとんどを占めています。
これらの教訓としては、一般市民に対して、何よりまず「手洗いの励行」を強調すべきであっただろう、と私は思います。

感染拡大で重要な役割を果たしたと言われている「スーパースプレッダー」になる存在にも、大きな「誤解」があります。
この名前だけから連想されるのは、あたかも患者自身に固有のリスクがあるかのようなイメージの言葉が飛び交い、それが一人歩きしてしまったことです。
SARSアウトブレイクについて2003年秋ごろから公開されつつある知見では、「ネブライザー」(気管支などの症状は和らげるために薬を霧状にして喉の奥深くに吹きかける医療器具)を使った医療行為や「気管内挿管」(自立呼吸が困難となった時、口から管を入れて体に直接空気を送り込む医療行為)などによって感染拡大が起きたことが報告され、貴重な教訓としてSARSに立ち向かった医師達が警告しています。
ネブライザー」によって発生した霧は、患者の奥深くにへばりついたウイルスを付着させ咳嗽とともに口から排出され、病室全体に広がってしまうリスクがありました。また「気管内挿管」は患者の口と極限まで自分の顔を接近することが求められることから、簡単に飛沫感染してしまう危険性があったのです。それら非常に危険な空間の真っ只中に医師や看護師たちが常に放り込まれるという光景が多くの場所で繰り広げられました。
むしろ、この2つの医療行為に「スーパースプレッダー」の原因を求めるべきではないでしょうか。
また、高流量の酸素投与がウィルスを遠くまで拡散させてしまう、という実験も教訓の中で示されています。
今回のSARSでは、「可能性例」の10%が重症患者となったと言う報告がなされていますが、そうなった患者に対しては当然、「低酸素血症」(酸素不足の血液)を引き起こしているため、治療現場では大量の酸素が投与されていました。酸素投与と言う医療行為も、ウィルス拡散の引き金の1つとなった、と言う事は想像に難くありません。
「空気感染」をする結核の場合でも、「気管支鏡施行医」による検査(ファイバースコープによる気管支検査)や病理解剖医(病気で亡くなった人の解剖)の中での結核感染が多いのです。
例えばそのリスクが患者を運ぶ救急隊員にとっても同じで、搬送途中、緊急措置が必要となったとき、手で操作する呼吸補助で用いるアンビューバックにより大量のウィルスが室内にまき散らされた事は想像に難くありません。つまり、医療行為中における感染拡大防止の方法にこそ、実は感染拡大の大きなリスクがあったと思われるのです。
……

こうしたことを読むと、要するに、

  • たしかにエアロゾル感染はしそうだが、エアロゾルを人体が常に発出するというよりは、医療行為のなかで作成されたエアロゾル操作によってむしろ「エアロゾル性ウイルス粒子」が作出され、それがバンバン感染を広げたらしいというイメージ
  • やっぱり手洗いぐらいしかすることがないらしい
  • コロナウイルスという点で、SARSウイルスであるSARS-CoV-1と、COVID-19 (いわゆる「新型コロナウイルス性肺炎」)のSARS-CoV-2の間で、ある程度バイオケミカルに共通性をもつのだろうし、そこのイメージもついてきた
  • マスクが有効なのは要するに、汚染に接触した手・指が、鼻・口のダイレクトアクセス頻度を下げることによって劇的に感染のレートを下げるということなのだろうというイメージもわいた

ということで頑張って手洗いしていきたいと思った。