私はたまたま植物学を専攻していて、植物について詳しい時もある。
時もあると言うのは何故かと言うと、私が専門にしてきたのは、植物とはいっても水の中で単細胞で生活する藻類だからである。
ただし鉢に植えてある園芸植物のようなものも、中学校の時から好きだった。毎週日曜日になると親に車を出してもらって大きな園芸店に連れて行ってもらい、ひがな眺めると言うことをしていた。それで「趣味の園芸」のような雑誌も読みふけっていたので、少し園芸植物のことも知っている。
5年前の結婚式の時、式に向けた打ち合わせの中で、納入してもらう花屋さんと、装飾に使う花のプランについて話していた時、いろいろな案が上がっていた。
その中の1つに白い大輪の百合の花をあしらったものがあった。ちょうど初夏の季節だったので、私も妻も―――その時はまだ妻ではなく婚約者だったわけだが―――これいいねと言う話をしているときに、私がその写真を見てぽろっと「そうですね。これはいいですね。カサブランカ……」と口に出たのを怪訝に思った花屋さんが「お詳しいですね」と言った。
妻は、彼は植物学者なんです、と言った。それで花屋さんは少し納得したようであった。
ただそれを詳しく訂正する事は私はしなかった。
なお、そのカサブランカのプランは少し予算がオーバーしそうになったので、やや縮小してもらうことになった。
結婚して、妻と一緒に住み始めた。妻は一人暮らしの時に買った鉢植えを3鉢持っていた。
その中に、買ったときは小さかったらしい、モンステラの鉢があった。
モンステラと言うのは、サトイモ科の常緑の多年草で、熱帯雨林に生育するツル性の植物である。説明するまでもないと思うが、大きな葉っぱに特徴的な切り込みが目を引き装飾としても人気である。
熱帯雨林の中では、そのツル性の茎を樹木に這わせ、よじ登って、はるか樹上の日光を求めて、ツルと葉っぱを伸ばしている。
私のモンステラのイメージはヘゴの支柱に這わせている大振りの観葉植物である。
ただ妻が持ってきたモンステラの鉢は非常に小さかった。そこから今まさにツタを伸びさせようとして這うような、映画の貞子のようなモンステラの姿だった。
妻に聞くとこのモンステラも最初は、小さな鉢で、支柱もなく、特徴的な葉っぱの2、3枚を主張しながら植えられていたのが魅力的だったそうだ。
私はおかしいなと思った。
一緒に住むようになって私は少し考えて、このモンステラの鉢を植え替え、支柱を買ってきてツルを這わせることにした。
そのために立ち寄った園芸店で、確かにモンステラが小さな鉢に支柱もなく、葉っぱメインの姿で置かれていた。
それはモンステラの真の姿ではない。
モンステラの姿と言うのはやはり蔓である。そして、そこから旺盛に伸ばす気根である。
そしてその園芸品店で、その葉っぱ2-3枚のモンステラの姿にまさに興味を惹かれる若い女性の姿が見かけられた。
その姿に独身時代の妻の姿を重ねてみることになった。
妻も、今そこでモンステラの鉢植えをためつすがめつしている女性のように、部屋の気軽なアクセントとして売られていたモンステラの姿に目を留めたのだろうと想像した。
私は心のなかで念じた。
お嬢さん。モンステラには気をつけて!
私はその店で必要な物を買い揃えて家に帰り、自宅のモンステラを植え替えて支柱を添わせた。
そうするとこのモンステラはどんどん伸びていった。その後も支柱を継ぎ足すことになった。それがモンステラの本来の姿である。
本来モンステラと言うのは巨大な植物で結構気合を入れて栽培する必要が出てくる。
育てること自体は全然困難ではない。生育させること自体は鉢に植えて1週間に1度か、夏場は乾いたら水をあげればいいわけだ。肥料も、そんなにあげなきゃいけないものではないが、この辺はもっと別の詳しい解説に譲りたい。
私がここで強調したいのはモンステラは、本来やばい植物である。
毒があるわけではない。部屋を汚すわけでもない。ただその本来の姿は大きい。
例えば子犬を入手してかわいいからと育てていたとする。その子犬が実は巨大な大型犬の子犬だったとしよう。その場合、成長していくうちに餌代も世話も大変になってくる。そういったことをイメージしてもらえればわかるかと思う。
観葉植物は部屋のアクセントとしてとても有効なものである。
インテリアの雑誌や本レイアウト参考書を眺めてみると、大体そこには家具のリストのほかにそこにはリストされていないグリーン、観葉植物の姿がこっそり入れてあるのに気がつくかもしれない。私は気がついた。
特にインテリアの模様替えの例を説明するような写真で、ビフォーとアフターで、アフターにだけ観葉植物が置いてあることがある。これは非常に人の印象を操作するものだ。
モンステラには気を付けろ。そういったことを生活の場からお伝えしたいと思っている。