殺シ屋鬼司令II

世界一物騒な題名の育児ブログです。読書と研究について書いてきました。このあいだまで万年筆で書く快感にひたっていました。当ブログでは、Amazonアフィリエイトに参加してリンクを貼っています。

MENU

植物と菌類の上陸作戦

きのうの続きである。


thinkeroid.hateblo.jp


最初の陸上植物はコケ植物だということを述べた。


これは、結果としてその後の陸上の緑化に至った直接の過程ではあったのだが、重要なパートナーの存在があったことをまず書いておきたい。


それは、きのうもすこし登場したが、菌類である。



『奇妙な菌類』は著者の白水貴氏から出版時に御恵投もいただきました(のちに自分でKindleでも買った)。


きのこだけでなく、カビや酵母といった、真菌類の多様性が魅力たっぷりに紹介されている。


この本のはじめ、生物の陸上進出というイベントについても、2つのシナリオが記されている。


ひとつはコケ植物とともに菌類も上陸したということで、これはきのうのストーリーだ。その「裏側」といえるかもしれない。

陸上植物の祖先は根が十分に発達していなかったため、土壌中から水分や無機塩類を吸い上げる能力は現在の植物に比べて格段に低かったと考えられる。菌根菌は、このような陸上植物の祖先が陸地で水分や無機塩類を得る手助けをしただろうし、菌自身も植物の体内に入ることで光合成産物の供給や紫外線からの保護などの利益を得ることができたはずだ。


白水 貴. 奇妙な菌類 ミクロ世界の生存戦略 (NHK出版新書) (Kindle の位置No.443-446). Kindle 版.


地中の微生物と植物の共生関係は植物学においてもフロンティアで、さまざまなグループから旺盛な研究が現在進行系で発表されているところだが、それが植物の初期陸上生活において重要な役割を果たしたという説だ。これは当然重要なファクターだった。もちろん共生関係もひとたび植物体が枯死した場合は即座に分解を受けていたであろうし、あるいは、他の植物病理学的側面で見られるように、単に平和なだけではなく、真菌類による植物の「病気」と、それに対する植物側のカウンターである「防御」という殴りあいが起きていただろうことも容易に想像できることでもある。


thinkeroid.hateblo.jp


いまひとつの関係は地衣類である。

もう一つの菌類の陸上進出の筋書きは、オルドビス紀よりもさらに昔、6億年前の先カンブリア時代(地球誕生~約5億4100万年前)までさかのぼる。ただし、こちらの仮説では植物ではなく、単細胞の藻類を共生相手としている。

白水 貴. 『奇妙な菌類 ミクロ世界の生存戦略 (NHK出版新書)』 (Kindle の位置No.453-456). Kindle 版.


地衣類は真菌と藻類の共生体で、「コケ」のようにみられたり「ウメノキゴケ」のように呼ばれたりもするが、コケではない。梅の樹皮に白いかさぶたのようなコケのようなものがついているのをみたことがあるかもしれないが、かなり乾燥した場所でも生育している。


光合成には水が必要だから、雨などで給水されないと光合成ができない。逆にいえばそうしたレアなチャンスをひたすら休眠しながら待ち続ける戦略というのはあって、そうした地衣類が乾燥したむき出しの土砂や岩肌を覆っていたと考えれば、「初上陸者」が地衣類だったというのは当然想定できることでもある。


地衣類の生育はひじょうにゆっくりなのだが、わたしたちが相手にするこの地質時代というのは平気で1億年とか経つので、どれだけ生育がゆっくりな生物でも原理的に陸上に進出できるなら、何十%か、ということはいえないが、相当程度まで陸上を覆うことができた可能性は非常に高い。



この地衣類も、共生関係である。単細胞の藻類は水中で生育するものだけではなく、水上で生育する「気生」のものもある。雨が降ると給水して光合成をはじめる(光合成には水が必要だ)ということだ。


こうしたさまざまな関係性をベースにして生物は陸上への進出を果たしていったと考えられる。


ただ、この両者いずれも、どう考えても、「水辺」に寄り添ったものか、「雨水」をうけている間のごく短期だけに活動するかのいずれかであったのではないかとも考えられる。水辺では繁茂しているいっぽう、そこから離れた位置にも地衣類として「存在」はしていても、乾燥のために一種の休眠状態にある。


いくら水場から離れづらかったとしても、コケ植物も陸上の環境を相当程度変えていたと想像するのは容易ではある。現生でも、湿原はミズゴケが堆積したものであって、土壌の保水力が向上している。そうした保水力の向上がスパイラルを生じて、保水地域が広がったと考えようということだ。


ただ、やはり、「いまわたしたちが目にすることのできる緑の大地」の構築までは距離がある。


(続く)