以前コンファレンスで聞いたポスター発表の研究が論文になって出ていました。それでTwitterでリンクを張りました。この研究は界隈でもややマイナーに思われているものですが、実は意義は小さくないし、むしろ界隈の外のほうが読まれるだろうと考えました。
これ、実は非常にアツい研究です。多細胞のボルボックス個体のなかでの役割分担を担う遺伝子のホモログが、単細胞クラミドモナスだと栄養ストレス応答で働いていたantagonistic pleiotropic effects on reproduction and survival in limiting environments https://t.co/SCoC4kKVyl
— 浜地 貴志 (@hamajit) 2022年1月27日
意外に伸びてるんですが、実際この遺伝子(somatic regenerator転写因子とその仲間たち)に馴染みが深いひとというのは全世界に30人くらいのボルボックス研究者とその周囲の藻類研究者で、ことさらに取り上げなければ存在を知らないままの生物学者も多いはずです。
しかし、転写因子の名前(体細胞の再・生殖細胞化)*1を見てもらえれば、なにか本当にヤバいことが起きているのが分かると思います。
ボルボックスというのはそういう生物です。
体まるごと裏返るのもアツいと思いました https://t.co/BzamUG5yPr
— Yutaka Matsubayashi (@Yutaka_Mts) 2022年1月28日
そのとおりです。
まず、細胞分裂と運動が同じ装置(中心小体=基底小体)から発します。
分裂を繰り返していったとき中心小体は細胞塊の中心になる一方で、この中心小体は細胞運動にも使わないといけない=細胞塊の外側に出さないと行けない。
この矛盾を解くために「内外反転」が生じるわけですね。
そういう意味でいうと動物の原腸陥入とは随分様相を異にする。
動物の繊毛・鞭毛(微小毛)は精子では運動に使っているが、多細胞個体としての運動、つまり環境に応答して微小毛を動かすのではなくて、むしろアクチン系で細胞形態を変容させることによって運動を実現しているということでしょうか。
だから動物の微小毛の意味あいってのもだいぶボルボックスとは違いますよね。
確かに動かしちゃいるんだが、どちらかといえば、環境応答というより細胞間環境を構築するために微小毛をぶんぶん回している。
ノーダルを左寄りに発現させて心臓を左に作るために必要な繊毛の運動などが有名ですね。
多細胞システムをどんどんessentialなものにしていくと、この辺の生物に行き当たる https://t.co/DlUNvyTBbY
— すいしぇ/Susaki EA (@suishess) 2022年1月27日
実際、最近出た何冊かの本でも、このボルボックスとそのゆかいな仲間たちのことに言及したものがありました。
いずれの本でも、私のやってたゲノム解読の論文の結果が引用されていました。
こうした本を見て思ったことは、自分なりの見方、自分の中での理解のしかたをあらためて表現するのは大事だな、ということでした。
こういう、自分が知ってることをベタに書き下していくことも必要かもしれないので、やっていこうと思います。