電車内の広告で目に入った本です。
『LISTEN』。潔い題名です。
しかもとても分厚い。500ページを超えます。
でも、正直「それ、読む前から内容想像できない? 人の話を聞くのは大事とか、傾聴とか……」ということが広告を見た瞬間に頭に浮かびました。
傾聴の重要性というのはみんな知っていると思います。
会話のコツは、ひとに何を話すかではなく、ひとにどれだけ話させるかだ、というのはよく言われています。
この『LISTEN』という本を読んでみると、ちゃんとそれ以上の本です。
そもそも、わかっていたからといって、実行できるかどうかは別問題です。
この本はまるで、ひとの話を聞くことに関する「百科事典」のような趣になっています。
さまざまな「聴く」プロフェッショナルへの取材をもとにした本です。
取材されたのは、元CIAのスゴ腕エージェントや、人気インタビュー番組製作班、マーケティングのフォーカス・グループ・インタビューの達人など。
さまざまな作家が「耳を傾ける」というスキルを創作に活かしていることも紹介されています。
というか、わたしがこの本をみた第一印象の「どうせ『ひとの話を聞くのは大事』という話だろ?」という姿勢自体を反省するような本です。
この本の原題は「You are not listening」、つまり日本版の題名と正反対です。
「あんたワタシの話聞いてないじゃない!」というニュアンスです。
特に結婚していたりするとしばしば出てくる表現かもしれません。恥ずかしながら。
いちばん大事な「聴く」方法ですが、明確な方法論としては拍子抜けするかもしれません。
あたまをからっぽにして相手に向き合うのがこの本の「聴く」ことです。
何も期待しない。
何も判断しない。
何も提案しない。
そういう姿勢です。
聞く技術とされる「あいづち」や「おうむ返し」も本当に聴いたことにはならないと指摘されていて耳が痛い。
この本はそもそも、「聴く」という能力が、「書く」「話す」能力に比較して、定まった訓練法とかカリキュラムみたいなものがないことを指摘しています。
(TOEICのリスニングとかは別にしても)「ひとの話をよく聴くためのリスニング教室」というのはなかなか聞いたことがありません。
そういう背景ですが、誰しもが知っているといえば知っている。でもやれていないといえばやれていない。
それがこの本の「あたまをからっぽにして聴く」ということでしょう。
何も期待・判断・提案しないので、ひとが話すことばを耳で聞き、対面であれば目で仕草を観察する。
そのときにどれだけ自分が思考を勝手に働かせてしまうのを手放すことができるか、に、熟練が必要かもしれません。
というのは、ひとが話を聴くことができないのは、聴くよりも先に、相手のことをさしおいて「考え」てしまうからでした(「うわのそらになるのは、『思考』が話よりも早いから」)。
ニコルスによると、優れた聞き手は、余っている処理能力を頭の中での寄り道に使わず、相手の話を理論的にも直感的にも理解するために全力をあげているといいます。
このように、要約したり抜書したりしてみても、まったくこの本を読めたという感じがしません。
なぜなら、もともと、本をほんとうに読むというのは、本の内容を実践することであり、その結果を引き受けることだと思います。
この本の内容を実践することは、もちろん、ひとの話を聴くことです。
それには質問をする必要もありません。
身近なひとが、なにか話し始めたら実践のチャンスだということです。
これはマインドフルネスとか坐禅にも似た課題だといえます。
実は、本として組版がゆったりしているだけでなく文章の構成も平易で、分厚い割にスムーズに読むことが出来ます。
そうはいっても500ページあるので重いしかさばります。
電子書籍のほうがいいかもしれませんね。