さてはて野々宮君はどんな格好をしておったかなとggる先生に伺うと、青空邸に通され、やっぱり、シャツの上にしみた背広を着ているのでした。
それにしても面白いわこのくだり。
「おいででやす。おはいんなさい」と友だちみたように言う。小使にくっついて行くと四つ角を曲がって和土(たたき)の廊下を下へ降りた。世界が急に暗くなる。炎天で目がくらんだ時のようであったがしばらくすると瞳(ひとみ)がようやくおちついて、あたりが見えるようになった。穴倉だから比較的涼しい。左の方に戸があって、その戸があけ放してある。そこから顔が出た。額の広い目の大きな仏教に縁のある相(そう)である。縮みのシャツの上へ背広を着ているが、背広はところどころにしみがある。背はすこぶる高い。やせているところが暑さに釣り合っている。頭と背中を一直線に前の方へ延ばしてお辞儀をした。
仏教wwww
その時野々宮君は三四郎に、「のぞいてごらんなさい」と勧めた。三四郎はおもしろ半分、石の台の二、三間手前にある望遠鏡のそばへ行って右の目をあてがったが、なんにも見えない。野々宮君は「どうです、見えますか」と聞く。「いっこう見えません」と答えると、「うんまだ蓋(ふた)が取らずにあった」と言いながら、椅子を立って望遠鏡の先にかぶせてあるものを除(の)けてくれた。
やっぱり漱石にかなうものはないなと感じいるしだいでございます。