殺シ屋鬼司令II

世界一物騒な題名の育児ブログです。読書と研究について書いてきました。このあいだまで万年筆で書く快感にひたっていました。当ブログでは、Amazonアフィリエイトに参加してリンクを貼っています。

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実家から米が届いた

学校で飯を炊く。
私は、あまり米をかすほうではない。かすとき、最初と最後に水を入れてそのまま流すという操作をする以外には、2回ほど水を入れて指先でぐるぐるとかきまわし、汁を捨てるぐらいで止める。薄づきでもあるし、かなり玄米に近い状態で食べている。
米をかしている時、コバエが飛び回っていた。大学にいるとき、すこし気が立ってくると、ナイス蚊っちを持ってeradicationを実践しているにもかかわらず、である。
abiogenesisを信じているわけではないが、こうしぶとく出てくると、やはり、無尽蔵に出てくる感じはおおいにある。
気を散らされながらも米をかし終え、炊飯ジャーに釜を据えて炊飯スイッチを入れる。
同時にスイッチが切り替わる。
自分のデスクに行き、ナイス蚊っちを手にとり、流しへ向かう。どこかに止まっているのだろう、姿が認識できない。
視覚においては、運動と形というのは別々のものとして認識されているらしい。
まして、ハエなど、小さな黒い点にしか見えない。そんなに目がいいわけでもない。
流しに拳を打ち当て、衝撃を与える。これによって、ハエを飛び上がらせる。そうすれば認識できる。
三角コーナーの脇から軌跡が延び、三角コーナーの中に入った。ナイス蚊っちでふたをする形で待ち伏せた。三角コーナーを揺らし、また飛び上がらせる。ナイス蚊っちのネットに入ってくれれば良し。
ハエは、カバーされていない隙間から飛び出てきた。そしてそのまま、白い壁に止まった。給湯器の下の狭い部分であり、ナイス蚊っちで壁をカバーするということができない。
ナイス蚊っちを、給湯器の下のスペースに、そろりそろりと差し込んだ。次に飛び上がったときに網を当てようとした。
だが動かない。
ナイス蚊っちはテニスのラケットの形状をしている。柄の部分に押しボタンスイッチがあり、押している間だけ、網にかかった虫に電撃を与えることができる。
ラケットの先端の部分で突いた。つぶれたハエは、流しのステンレスににじくっておいた。
あと二三匹がいるようだった。
一匹は、傍の壁に飛び上がったときにナイス蚊っちを近づけ、見事に網に接触し落ちた。
用心しなくてはいけないのだが、ナイス蚊っちはかならずしも昆虫を殺せるわけではない。
少なくとも、電流が流れるのは確かである。その電流は、一度充てただけでは、ただし、一瞬昆虫が気絶する程度でしかない。
浄福な効果を得るためには、網の上を転がすしかないのである。
しかし、網になっているので、なかなか転がらない。だから、一匹がつかまると、ナイス蚊っちを水平に持ち、その上に虫を落とす。そして、柄をもち、スイッチをオンにしたまま、柄をこんこんと叩いて衝撃を与えながら、もっとも電流が流れやすい位置と角度を探していく。
このとき、こうばしい香りがする。タンパク質が焼け、焦げるにおいだ。火花がときどき散る。
よい位置に虫が偶然に嵌ってくれれば、虫の体に十分な電流が流れ、閃光とともにはじけ飛ぶ。
ハエと異なり、甲虫たちはなかなかこうした快感を与えてくれないが、別種の悦びがある。先週、カナブンが飛んでいたので、ナイス蚊っちの一撃を食らわせて叩き落し、捕捉した。甲虫は体が大きいので、すぐに死ぬということはない。私はナイス蚊っちを水平にし、カナブンの腹を網に当てて、置いた。カナブンは動き回ろうとしていた。スイッチを入れた。
電流にカナブンは苦しみながらも、逃れようとゆっくりと肢を動かしていた。しかし、どこに肢を伸ばそうとも、どこもそれは電圧を湛えた金網である。のそりのそりと歩いていた。飛ぶということは考えられなくなるらしい。ときどき、運動神経を外部からの電流が流れるのか、ピクッ、と小刻みに震えるときがあった。
隣の研究室の人に部屋の外から呼ばれたので、廊下に出た。ナイス蚊っちの上のカナブンを見せながら廊下で話していた。バドミントンをいつするか、カラオケをどうするか、という話だったと思う。
そんなうちに、カナブンは動かなくなった。スイッチから手を離し、ナイス蚊っちを逆さにし、コンコンと叩いてカナブンを落とした。やはり動かない。もう死んだのだろう。蹴ると、非常扉の下の隙間に入り込んだ。
以前、部屋に入り込んできたハチに試したときも、なかなか時間がかかった。私が在籍するのは生物の専攻であり、ハチを研究材料に使っている研究室がある。そこのハチだろう。ハチは顎が大きいので、その顎を押し当てて通電して5分ほどたつと、顔の半分が焦げて焼け欠けていた。
流しのところをほぼeradicateできたと考えたので、デスクに戻った。ナイス蚊っちを置き、実験の資料を手にしたとき、軌跡を見た。
書棚の間のスペースにハエが止まるのが見えた。また厄介なスペースだ。ナイス蚊っちを手にとり、スイッチを押しっぱなしにしたまま近づける。ハエが飛び上がる。網でハエを追う。
火花。
小さなハエが網にかかった。動かない。コンコンコンと柄を叩き、最適点を探索する。
パンッ、と音がしてはじけた。
この瞬間のために私は目を凝らしているのだ。
はじけたハエは下に落ちた。はじけたのは羽だけらしく、焼け焦げた羽の基部を懸命に震わせている。飛んで逃げようとしているのだが、努力も空しく、床を転がりまわるだけしかできない。
肢を指先でつまんで網の上に載せ、terminateしようとした。しかし、羽が欠けたハエは小さくなって網になかなかかからない。枠のところに引っかかるようにし、スイッチをいれた。
転がしているうちに何度も落ちてしまう。
スリッパで踏み潰した。