妻は日頃、育児をしながらラジオを聴いている。そのなかの番組で朗読の題材となっていた作品を、図書館で借りてくる、と言っていた。
「それはなんて作品なの?」
「山本周五郎の、『いねむり探偵』……だったかな? あっ、『寝ぼけ署長』だった」
「……なんか、そういう本が最近出たらしいよね、図書館でうろ覚えの題名をレファレンスしてもらうネタを集めた本。でも、いねむり探偵だったら、名探偵コナンのおっさんもほぼそれだよな……」
朗読は、NHKラジオ第2で平日の朝に放送されている番組だ。俳優の中原丈雄が『寝ぼけ署長』を朗読している。明日以後もまだ進行中だ。
この週末は、アプリ「らじるらじる」の聞き逃しで二人で子供にアテンドしながら聞いていた。
山本周五郎といえば時代小説だと思っていたのだが、この『寝ぼけ署長』は現代を舞台にした推理小説ということになっている。現代といっても、もちろん1967年に死去した山本周五郎が、戦後すぐに発表したときの現代なので、そういう時代である。
妻が図書館で借りてきた文庫本をめくると、この「署長」氏は41、2歳だというところで仰天してしまった。
自分と2-3歳しかちがわないのに、警察署長になっている。
推理小説ということで、毎回なにやら事件が持ち上がっては署長が解決していくのを、部下だった警官の目からだが、そこは山本周五郎なので、人情物になっている。
朗読を聞いていて思うのは、やはりこれは現代の警察署長と警官と結構していても、山本周五郎の内実ではたぶん、お奉行様と同心、というふるまいにしか見えない。
最初の章などは、事件の現場におもむく署長は、着流しを着てやおら出掛けていく。もちろん戦後の頃に着流しを着るのは日常的だったのだろうが、もういまからすると、どうしたってこれでも時代劇のかたちだ。