殺シ屋鬼司令II

世界一物騒な題名の育児ブログです。読書と研究について書いてきました。このあいだまで万年筆で書く快感にひたっていました。当ブログでは、Amazonアフィリエイトに参加してリンクを貼っています。

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「書く」ことそれ自体を解き明かす本『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』(古賀史健)

目次

総合評価 92点(名著)

著者の古賀史健さんは、ベストセラー『嫌われる勇気』シリーズ嫌われる勇気幸せになる勇気)を岸見一郎さんと手掛けたライターです。

分厚い本ですが、『嫌われる勇気』シリーズと同様、とても読みやすく、重要なテーマを大胆に論じながらも、ぐいぐいと引き込んで読ませる本です。

つまりはそうした本であったり文章を書けるようになるためにはどうすればいいかという本です。それをみずから体現する本になっているということで、離れ業でした。

この本がスゴいのは、奥の深い「書く」という営みを、執筆の現場の豊富な経験から、明快に解き明かすところにあります。

この本でなにがわかるか?

この本は、「ライター」という仕事をするにあたって必要な能力を読者が身につけられるように、あたかもライターの訓練学校のテキストとか、その講義録であるかのように書かれています。だから入門者にとってもとても読みやすい。

そして、その仕事を

  • 取材
  • 執筆
  • 推敲

という3部にわけて説明しています。

ただ、その書くという行為は、職業としてのライターにかぎられたものではありません。

「文章」というもの、あるいは「書く」という行為を因数分解した「取材・執筆・推敲」という3ステップは、知的生産活動に共通したものです。

それを、ライターとして経験も評価も高い著者が解き明かした知的生産の技術が開陳されているといえます。

この本を読んで良かったところ

またさらに、この本は、流通している「書かれたもの」というおよそありとあらゆる文章の、理想とするところみたいなものが浮かび上がってきます。

どういうことか。

文章にはさまざまな性格のものがある。本、インタビュー、対談、エッセイ……それぞれの形式のというものにはそれぞれの性質がある。

本であれば、構築には非常に時間がかかるが、ある程度の分量をもち、記述にはひろがりをもたせて、まとまったパッケージにすることで、比較的長い間読まれる可能性がある。

いっぽう、たとえばインタビューのようなものは、それよりも、インタビュイーの人間性をとらえて、読者がなじみやすいようにしていくことができる。

つまり、形式のもつ性質をとらえて、それぞれの案件の目的をかなえていくことがライターには求められている、ということです。

逆にいえば、いち読者として、さまざまな本やインタビュー、対談、エッセイといった、それぞれの形式を読む、その読み方がアップデートされることが期待できるといってもいいでしょう。

印象に残った部分

たとえば、わたしがハッとしたのは、「本」という形式を「デパート」になぞらえるくだりです。

本というのはデパートのようなものだ。デパートというものは、1階部分に高級なジュエリーや化粧品がきらびやかに飾り立てられている。その視覚的・嗅覚的な官能の刺激に、訪問者はハレの気持ちにはいっていく。そして、その気持ちのまま、メインとなる婦人服へとすすんでいく。紳士服・インテリアはそのバリエーションとしてあるが、こうした流れは、「本」というメディアでもあてはまるものだ。そして階をのぼっていった先の屋上は、都会を上から見下ろす、あらたな眺望であり、本を読むというのもまたそうしたあらたな眺望を読者にあたえることに、ほかならないのではないか……

エモいですね。

これは著者が本書でもいっているように、主に本をつくることを自分のミッションとし、さらにそれで実績をあげてきたこともあって、非常にチカラをいれて説明してあります。

ほかにも、エッセイとコラムという文章の性質、そのちがいを説明するところも、「なるほど」と思いました。

こんな人にオススメしたい

もちろん、この本は「ライター」という職業を目指すひとを対象として書かれています。だからそうしたひとたちには必読でしょう。

しかし、書くという行為は、研究者においても密接なものです。

研究者の書く文書は、原著論文だけでなく、レポート、総説、コラム、エッセイ、本といった公刊をめざしたものだけではありません。基本的には公開されない、研究費や求職のプロポーザルなどもありあす。

とくにこの本がやっているように、自分が書こうとしている文章がどういう意味・意義をもっているものなのか、その性質を考えることは、有効な文書作成には役立つでしょう。