殺シ屋鬼司令II

世界一物騒な題名の育児ブログです。読書と研究について書いてきました。このあいだまで万年筆で書く快感にひたっていました。当ブログでは、Amazonアフィリエイトに参加してリンクを貼っています。

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ホモタリズムについて

なんとか生きてはいる。
研究は……「厳しい時間帯ですね」。大小の和英の原稿・準備が近づいている。特に、博士の時の大きめの仕事は、共同研究が増えていき、データの規模がもっと大きくなっている。
原稿を書く、という生き方を、なぜか高校の時から意識していた。そういうハウツウ本も読んだ。役に立ったものもあり、役に立たなかったものもある。
3月にひと通りの原稿を書いて指導教員に送った。それは、その前に習得していたクロス・レファレンスを使用して、アウトライン構造も当然もってやってあった。
返却はただちに頂いた。
それから2ヶ月、あれこれで見直せなかった。
やっと見なおしてみた。
苦労して埋め込んだクロス・レファレンスもアウトライン構造も、すべて失われていた。
どうやら、指導教員が原文をコピペして新規ファイルに貼り付けて、そこから推敲機能で差分を保存したようだった。それは、プロパティを見ればわかった。
ああああああああああああああああ
という声が出てしまった。
恥ずかしながら、それ以外にも塩漬けのデータがある。
塩漬けの理由はたぶん出口を見失っているからだと思う。
ひとつ、先月やっとPLoS ONEに公開できたとはいえ、たくさん残っている。
公開までこぎつけられたのは出口が最初から決まっていたからだ。
ホモタリズムについて切り込むことだった。

Hamaji T, Ferris PJ, Nishii I, Nishimura Y, Nozaki H (2013) Distribution of the Sex-Determining Gene MID and Molecular Correspondence of Mating Types within the Isogamous Genus Gonium (Volvocales, Chlorophyta). PLoS ONE 8(5): e64385.
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0064385

この論文は大きく分けて2つの切り口がある。

  1. 種が違うと掛けあわせ実験ができないのでヘテロタリズムの交配型同士を対応付けできなかったのが、OTOKOGIという愛称が広まってしまった緑藻の某性決定遺伝子MIDのホモログの有無で付けた
  2. ホモタリズムのOTOKOGIを同定した

きょうは2番目の、ホモタリズムのOTOKOGIについて書いておきたい。
まずホモタリズムでは生殖が自己完結する。Homothallismと書く。Heterothallismと対をなす概念である。
こうした緑藻では一個体を単離して培養株を確立するという作業が行われる。そうすると細胞分裂(無性生殖)で増殖する。増えてくるとちょっとだけ取り出して新しい培養液に入れてやるとまた増える、取る、入れる、増える、取る、入れる、増える……
Chlamydomonas reinhardtiiでは交配型がプラスとマイナスの2つあり、Volvox carteriでは性が雌と雄の2つある。これらがヘテロタリズムになる。ヘテロタリズムはいくら無性生殖で増殖してもその中で有性生殖を進めることはない。勝手には、しない。
Chlamydomonas reinhardtiiではマイナス交配型に、Volvox carteriでは雄に、それぞれ「OTOKOGI」と愛称を付けられたMID遺伝子があって、これは転写因子で、いわばこの有無がスイッチになっている。MIDがあればマイナス交配型。なければプラス交配型。
交配型と性はどう違うんですか?
精子と卵っていうサイズの大小差があったら性で、それぞれ雄と雌。サイズの差がないと、交配型。ここではそれだけの違いである。
ではホモタリズムは?
ちかしい緑藻のGonium multicoccum NIES-1708株はホモタリズムである。ヤマダ君 (Yamada et al. 2006) が単離した。
1細胞取って増殖させ、栄養源が枯渇してくると勝手に受精したというものである。
ホモタリズムでもOTOKOGIという愛称の付いた遺伝子であるMIDはあるのか?
あった。
どういうことだよ? 何か、別の仕方で制御しているんだろう、と考えている。
先日から性が2つとか3つとか4つとか7つとかいっぱいとかいうことで一部で盛り上がっていたけれど、ではホモタリズムは「1つ」なのか?
私の論文ではそこは突き止められていないが、おなじ問題意識を共有する「ホモタリズム仲間」である土金さんのミカヅキモの研究が参考になる。

Tsuchikane et al 2011 Zygospore formation between homothallic and heterothallic strains of Closterium. Sex Plant Reprod. 25(1): 1-9.
http://dx.doi.org/10.1007/s00497-011-0174-z

iOSバイスをお持ちの方は専用のアプリ「AlgalSex」も出ている。カテゴリは「教育」である。
AlgalSex - iTunes
CMでは不肖私めが声を挿入させていただいている。

というところをかいつまんでいうと要するにミカヅキモのホモタリズムは

一株二役

ということになるらしい。
なおホモタリズム仲間は随時募集中である。
そもそもボルボックス有性生殖をするというやいなや驚くひとが多い。します。有性生殖は真核生物の非常に広い系統に見られるものです。
若干宣伝もあったのだけれど金銭の授受はなく、勝手にわたしが宣伝しているものである。「ステマ」ではないとおわかりいただけるだろうと願っている。語の定義に敏感なかたであれば。