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歴史と地理と植物
わたしは世界史と食と植物のかかわりのことを考えることが実は好きです。
それは、これまでに書いてきたこういう記事をみてもらえればわかるかもしれません。
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そういうわたしが『古代メソポタミア飯』という本をみて興味を持たないわけがありません。
本の構成
この本は、前半では、石板に刻まれたギルガメシュ叙事詩の概要と、その舞台となったメソポタミアの地理が説明してあり、紀元前の古代メソポタミアの世界観に誘われます。
そして後半には、メソポタミアの石板から解読されたさまざまな料理のレシピが、予想復元例の写真とともに説明してあります。
やはりこれがいちばんの目玉で、当時の現地のひとたちがどのような食事をしていたかは興味がわきます。
食材の特徴
ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄 上巻』を読むとわかりますが、メソポタミアは「肥沃な三日月地帯」としても知られています。この地域は同時に、たくさんの農作物が起源したことも注目する必要があります。
ですから、このレシピで使われているものはかなりの部分、いまも利用されている作物があります。
たとえば、炭水化物としては小麦がそうです。ミネストローネの記事で使ったブルグルは、そこで説明したように、栽培化されて脱穀しやすくなったデュラム小麦の、脱穀した粒です。
そしてメソポタミアの野菜の柱となるのは、ニンニク、ネギ、玉ねぎだったというので、これらも現在なおおなじみですね。
また同時に、豆科のヒヨコ豆やレンズ豆とか、ピスタチオといったナッツも利用されています。
この本に収載されたレシピの中で色合いに特徴があるのはビーツですが、これもボルシチなどで現在も利用されているわけです。
こうした旧世界作物はこの時点でおおくが利用可能になっているわけですね。
基本的には、現在の地中海沿岸でおこなわれている食に精神としてはかなり近いなという印象を持ちます。
タンパク源としては豆もそうですが、羊肉や牛肉のほか、鯉などの魚料理も食べられていたことが窺えます。
出汁がおもしろい
わたしは食文化をみるときにスープとソースをみることが多いです。
その点から興味を引くのは、スープ(出汁)を組むうえで利用される「アサフェティダ」という作物です。
リンクした記事であるように、硫化化合物に由来する「悪魔の糞」になぞらえられる強烈なニオイがあるスパイスで、このニオイが加熱で芳香に変容するといわれ、それがメソポタミア飯の出汁のコアとなったのだなということがわかります。
現在はインド料理のスパイスの構成要素として受け継がれているようですね。
それからソースのほうは、ビールを料理に用いたり、ワインビネガーであったり、そうしたものを和えて利用している。
ざっと眺めていて意外に思うのは、オリーブオイルがあまり前面にでてこないようにみえることです。
オリーブオイルもじつはこの地帯に原産しています。
ノアの方舟で鳩がオリーブの枝を持ってきたわけですが、ギルガメシュ叙事詩にも方舟伝説が言及されているので、この地域のことだとわかる。
メソポタミア当時では薬品としての利用が主だったということでしょうか。