「名門」と書いたが「何が名門だよ……」と思うひともいるかもしれない。
でも、わたしはゲル切り出しにはもう10年以上この器具をつかっている。
特徴
- 切り出しは片手で OK!1 回の操作はわずか数秒で完了します。
- アガロース濃度が低くても切り出し速度は変わらず,また切り出し操作の失敗はほとんどありません。
- 切り出し口サイズ:幅 7 mm × 厚み 2 mm
調べたらフナコシとプロメガとふたつページが出てきたのでいちおう両方リンクしておこう。
たぶん「えくすとらくた」と読むのだと思うのだが、要するに切り出し(エクストラクション)を、ちょっとシャレて書いてみたものだろう。
たぶんこのページをみているひとはゲル切り出しのほうはよくご存知で、しかしこのエクストラクタはつかったことがないひとのほうが多いとおもう。
いちおうゲル切り出しについて書いておく。
たとえばプラスミドのインサートを載せ替えたいとき、制限酵素で消化してインサートを除いたバックボーンだけを切り出してカラム精製をする。
また、遺伝子配列を決定するためにPCRをすると、複数のバンドが出てきてしまうことが非常にしばしばある。そこから目的のバンドがどれかわからない中で、いちおう個別のバンドにわけて配列決定に回すことはルーティーンである。
特に私がしばしば行ってきたTAIL-PCRについてはそうしたラダー(はしご)上の複数本のバンドシグナルがあらわれることが珍しくない。
こういう場合に、アガロースゲルに泳動したバンドをトランスイルミネーター上で切り出し、目的の長さのDNA断片だけを精製するのがDNAゲル切り出し作業である。
この切り出しに、カミソリや、メスや、時にはカバーガラスを用いて、丁寧に切り出すことはよく行われていると思う。わたしもいくつかのラボでそうした手順を見ている。
さてエクストラクタである。エクストラクタは、リンクからみてもらえればわかるかと思うが、要するにクチが平たい筒になったスポイトといえる。
その平たい筒を、トランスイルミネーターの上に乗ったアガロースゲルにおもむろに、垂直に、ブッ刺す。
そのまま、ひきあげる。
このとき、キモチ・陰圧めにすると、うまく取れる。ブッ刺すときにあえてかすかにスポイトを押し気味にしたままブッ刺すのがコツだが、失敗すると、スポイトのニップル状部分に「すぽん」と吸い込まれてしまう(心配しなくてもその際はとんとんとんとんと落としてやれば出ることが多いとおもう……たぶん)。
そして、脇に準備して並べておいたエッペンチューブにセットして「ポン!」とスポイトをつまむと、ゲルが出てくる。
あとは、いつものカラム精製を行えばいい。
エクストラクタで切り出されたゲルが良いのは、どのサンプルも、ほぼ同じゲル容量となる、ということだ。つまり、このゲルサンプルのカラム精製に先立つ50℃でのゲル融解バッファ添加の際に、毎回ほぼ同じ量を使えば良くなることが、期待できることだ。一度、エクストラクタで切り出した自分のゲルが100 µLぶんだと測ったら、次もだいたいそれぐらいの容量だと期待すればいい。そうすると、例えばキアゲンのゲル切り出しバッファは、ゲルの3倍量のバッファを添加するので、300 µLを入れていくことが期待できる。
※※※※※自己責任でお願いします。※※※※※
カラム精製は、わたしは所属する先々で、エコノスピンを結果的に伝道している。
いちおう、これは1サンプルにつき1本のディスポーザブルである、という説明書きがなされている。クロスコンタミネーションをさけるためである、という。サンプルごとに替えてくれ、いっぱい使ってくれ、そしていっぱい買ってくれ、くれぐれも洗って使ったりしないでくれという、メーカーからのお気持ちを前にしながらも、あなたはその実験・そのサンプルがクロスコンタミネーションすることをどれだけ気にするだろうか? もちろん気にはする。大事だ。しかしそれが、どれだけの量的なクロスコンタミネーションであるかを考える「目」や「頭」も、実験生物学者には必要なのではないかな、と僭越ながら愚考しもする。たとえクロスコンタミネーションしたとしても、いずれその後の工程で、クローニングし、シーケンスを確認するなどの操作を行うとすれば、そのクロスコンタミネーションの懸念に対してどれだけ意味があるだろうか?
わたしは「語り得ぬものに対しては沈黙しなければならない」(ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考 (岩波文庫)』)。
興味があれば、ぜひサンプルを出入りの業者さんに頼んでみてはいかがだろうか?