殺シ屋鬼司令II

世界一物騒な題名の育児ブログです。読書と研究について書いてきました。このあいだまで万年筆で書く快感にひたっていました。当ブログでは、Amazonアフィリエイトに参加してリンクを貼っています。

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寝返るという高度な技術

いまはむかし、子供がまだ生後5ヶ月にならない頃だ。

新生児〜乳児は基本的に仰向けの体勢をさせていた。これは当然、新生児突然死症候群・SIDSを避けるための指導に沿ったものだ。うつぶせのほうがSIDSのリスクが高まるというものだ。

しかしながら、発育と身体運動の過程を考えるとき、仰向けから寝返ってうつぶせになるということは、ハイハイを開始するための重要な段階になる。だからどこかの段階で、うつぶせというハイリスクな状態に到達するための寝返りというのは通過儀礼としても必要だ。

当時、まだ動きまわることもほとんど身につけていなかった私達の子供は、とうとう寝返った。いや、寝返ろうとした。そのときのことが印象的で、思わずスケッチしてあった。

わたしがそのころしばしば見たのは、寝ながらからだを横に倒す子供のうごきだった。

図1・右腕右脚を左側に倒す

この動きを、人体基準のテクニカルタームでいうと「ヨー」になる。図2でまとめよう。子供の人体の上下を軸にして、右から前を通って左に回転する。右ねじが下から上へ回転して進む動きを「正」の動きとして捉えると、ヨーということになる。

図2・ロール・ピッチ・ヨーと軸の間の関係

さてここから、うつぶせになるというのは大人にとってはなんの造作もないことだが、よく考えてみれば結構複雑なことをしている。それが図3だ。

図3・本来、寝返りで次に必要であるはずの手順
  1. 右手を突く。胴体を右腕の力で押し上げて浮かせる。
  2. 左肩を抜く。やや浮き上がっている胴体・左肩から左腕を後ろに引く。
  3. 右腕の力を抜いて胴体を着地する。

つまり、先程のロール・ピッチ・ヨーでいえば、体の左半分でヨーを継続するということだ。この動作を大人は無意識にこなせてしまうが、乳児にはそうはいかない。そうした動作自体を習得する時期だ。

私はだから図1の動作をしている子供を見て思わず注視することが続いた。この時期、何回か見たと思う。そしてある日、とうとう寝返りに成功した。……のだったが、その初めての寝返りの手順は大人の想像を超えていた。

図3・子供の超絶技巧

左肩を支点にして、両脚をバタつかせて「前進」、つまり「ピッチ」回転をした。床の上でするサマーソルトキックのような動作だ。さらにいえば、これは負方向のピッチである。正方向のピッチというのは、上半身が体の前を通って下半身に向かっていくような、おじぎに近いような方向だ。

これによって胴体が左肩・左腕の上を通過して、幾何学的には寝返りを完了している。しかし問題があった。

それはこれで寝返りには成功はしている。しかし、この行動は肩を思いっきり圧しながら回転する、つまり擂り潰すような動きになる。それが痛かったのだろう。子供はこれで大泣きしていた。

私はそれを眺めながら、こういう解もあるのかと驚いた。実際に大人がやっているのとは違うけれども、確かに、幾何学的にはそうしたことも可能だからだ。その発見・試行錯誤の過程を記録し残しておきたいと思った。

ここまで書いて、URLを設定するのに「寝返り」を意味する英単語を調べたらroll-over、つまり、寝ている頭から爪先の方向をX軸として考えて「ロール」することになるようだ。Rollという動詞は長軸方向を軸に回転するという意味合いが語源としてあるらしい。丸太がごろごろと坂道を転がっていくのなどはrollだというのはわかる。

このブログも「世界一物騒な名前の育児ブログ」を標榜していながらそもそも育児記事をほとんど書かないで過ぎてしまっている。最近、過去の写真・画像データをあらためているときにふとこの寝返りを描いたスケッチを見て記事にしようと考えた。