殺シ屋鬼司令II

世界一物騒な題名の育児ブログです。読書と研究について書いてきました。このあいだまで万年筆で書く快感にひたっていました。当ブログでは、Amazonアフィリエイトに参加してリンクを貼っています。

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ビジネス書を読むことが研究に活かせるか

私は生物学者ではあるが、例えば気散じにビジネス書を読んだりして何か使えないかと考えることがある。

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

この「研究者の仕事術」でも自己啓発書やビジネス書が引用されており、この著者の先生も非常に生産的な方であるから、何らかの資するところないではないのだろう。
さらには
イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

に至っては、それ自身がビジネス書でありながら、そのもととなったブログエントリはまぎれもなく研究に関することからスタートしていた。
私などは修士課程で企業への就職活動を試みそして無残となったから、こうしたビジネス書を「ビジネス書として」読んだ経験はあるから、「イシューからはじめよ」の内容も馴染み浅いものではなかった。研究一徹にあった真面目な大学院生でも幾分かこの本は手に取りやすかろうし、であればこそそうした学徒らの唯一のビジネス書となっている可能性も考えられる。
活かすことを考えながら読むとしても直接研究活動のことが書かれているわけではなく、売ったり商談したりする話が出るので、適宜読み替えていくのは不可避となる。
そうして読みながら読み替えていくとき、「顧客」という概念には引っかかる。
昨今の科学コミュニケーションの風潮そのままに「国民」とか「読者」と考えるとあまり生産的ではない。むしろ、研究対象の生物・現象を「顧客」に読み替えるほうが近いと思われる。
にわか者の理解では「マーケティング」というのはおそらく、

顧客の論理を、企業の論理を以て表現する

ということだろうとあたりをつけている。
そうであればこそビジネス書ではきっと顧客というのは中心概念のひとつなので、それほどの知的リソースを投じねばならない対象というのはそれこそ研究対象とする生物あるいは現象に置換して考えるのが順当だろう。
生物学者は生物「を」明らかにするのでなくてはならない。〈生命〉のようなゴタク概念が生物「で」明らかにすることがあったとしても、それは「を」が十全に果たされてはじめて許されるのである。
昨年の記事でそうした発想が「あてはまる!」と思ったのがスタートアップ諸君、15秒で答える練習を―Y Combinatorの面接で聞かれる質問はこれだ! | TechCrunch Japanであった。
これらはベンチャーを立ち上げようとする若者が資金を調達しようとするコンテストのためのものであって、きわめて科研費調達の発想と近い。
この中で「ユーザー/顧客」を置換するとき「生物」と「市民」のどちらがおさまりがいいかは明らかである。
これを参考に自分の研究を振り返って、突き詰めて考えることは実際意味があると思う。 独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則の本でも、米でのラボ立ち上げは「研究起業」だと記述があった。
先ほど紹介したエントリにあるY-combinatorの質問と言われるものを例に読み替えを試みてみよう。

  1. So what are you working on?
    • 今、何に取り組んでいる?
      • そのまま。
  2. Have you raised funding? 
  3. What makes new users try you? 
    • 新しいユーザーがこのプロダクトを使ってみようと思う理由は?
      • 対象となる生物にこの研究をしてみようと思った理由は?という転倒。
  4. What competition do you fear most?
    • いちばん怖いと思うライバルは?
      • そのまま。
  5. What’s the worst thing that has happened?
    • 今までで最悪の体験は?
      • そのまま。
  6. Will you reincorporate as a US company?
    • 会社をアメリカで作るつもりはあるか?
      • 「ラボを」
  7. What’s an impressive thing you have done?
    • これまででいちばん自慢になるきみの業績は?
      • そのまま。
  8. Where is the rocket science here?
    • ロケット科学〔容易に真似ができない高度な技術〕はどこに使われている?
      • そのまま。
  9. Why did you pick this idea to work on?
    • このアイディアを開発のベースに選んだ理由は?
      • 開発→研究
  10. Why do the reluctant users hold back?
    • ユーザーが使うのをためらう理由は?
      • 上記とおなじ
  11. Who would you hire or how would you add to your team?
    • きみのチームに次に誰を採用したい?
      • そのまま。
  12. What problems/hurdles are you anticipating?
    • どんなハードル/問題が起こりそうだと予想している?
      • そのまま。
  13. Who is “the boss”?
    • ボスは誰?
      • そのまま。
  14. What is the next step with the product evolution?
    • このプロダクトは次にどう発展させていきたい?
      • プロダクト→研究
  15. Who needs what you’re making?
    • このプロダクトを必要としているのはどんなユーザー?
      • この研究があてはまるのはどんな生物?
  16. How does your product work in more detail?
    • プロダクトがどういう仕組なのかもっと詳しく説明すると?
      • プロダクト=研究
  17. What are you going to do next?
    • 次にどんなことをしたい?
      • そのまま。
  18. Where do new users come from?
    • 新しいユーザーはどこから来る?
      • 研究対象になる生物の基準……
  19. How big an opportunity is there?
    • チャンスの大きさは?
      • そのまま。論文誌の見込み。
  20. Six months from now, what’s going to be your biggest problem?
    • 6ヶ月後に直面しているであろういちばん大きな問題は?
      • そのまま。
  21. What’s the funniest thing that has happened to you?
    • いままでいちばんおかしな体験は?
      • そのまま。
  22. Tell us something surprising you have done?
    • 何か人が驚くようなことをした経験は?
      • そのまま。
  23. Who are your competitors?
    • ライバルは?
      • そのまま。
  24. What’s new about what you make?
    • このプロダクトの新しさは?
      • プロダクト:研究
  25. How many users do you have?
    • ユーザーは何人?
      • 何種の生物を扱っているか……
  26. Why isn’t someone already doing this?
    • 今まで他の人がこれをやらなかった理由は?
      • そのまま。
  27. What are the top things users want?
    • ユーザーからの希望でいちばん多いものは?
      • これは少しおさまりがよくない。ここまでの方針(ユーザー=生物)から素直に考えると、「その生物でわかっていないこと」だろう……
  28. What is your burn rate?
    • バーンレートは? 〔スタートアップ企業が利益が出る前に資本を消費する割合〕
      • 論文を出すのにどれだけ研究費を使うか
  29. How do you know customers need what you’re making?
    • ユーザーがこのプロダクトを必要としているどうやって分かる?
      • 研究テーマに対する、対象生物のマッチング
  30. What domain expertise do you have?
    • 専門知識は? 〔domain expertiseはAI分野でよく使われる用語で、「特定分野の専門的知識」といった意味〕
      • そのまま。
  31. What, exactly, makes you different from existing options?
    • 既存のプロダクトとの違いを正確に言うと?
      • プロダクトが研究である以外はそのまま。
  32. What’s the conversion rate?
    • コンバージョン率は? 〔一般に訪問者数と収益に結びつく行動回数との比率。フリーミアム・サービスなら無料ユーザーの有料ユーザーへの転換率、等〕
      • 論文がどれだけ出せるか、か……
  33. What systems have you hacked?
    • これまでどんなシステムをハックした? 〔hackはもともと不法侵入の意味ではなく、「すばやく仕事をして成果を出す」といった意味〕
      • そのまま
  34. Who would use your product?
    • このプロダクトを使うのはどんな人?
      • 生物について
  35. How will customers and/or users find out about you?
    • ユーザー/顧客はどうやってきみのプロダクトを見つける?
      • どう生物を見つけるか
  36. Why did your team get together?
    • きみたちがチームとして集まった理由は?
      • ラボ立ち上げの……
      • そのまま。
  37. In what ways are you resourceful?
    • きみの強みはどこにある?
      • そのまま。
  38. What is your distribution strategy?
    • 流通(配信)戦略は?
      • 研究の展開
  39. What has surprised you about user behaviour?
    • ユーザーの反応でいちばん驚いた点は?
      • ユーザー=生物の驚き
  40. What part of your project are you going to build first?
    • このプロジェクトはどこから作り始めた?
      • そのまま
  41. What’s the biggest mistake you have made?
    • 今まで最大の失敗は?
      • そのまま。
  42. Who might become competitors?
    • 今後ライバルになりそうなのは?
      • そのまま。
  43. What do you understand about your users?
    • ユーザーについてどんなことを理解している?
      • ユーザー=生物
  44. What is your user growth rate?
    • ユーザーの伸び率は?
      • 生物の増え方、とすると変なので、どうやって対象となる生物・現象を増やしていくかとか
  45. What are the key things about your field that outsiders don’t understand?
    • この分野で部外者には理解しにくいキーポイントは?
      • そのまま。
  46. Who is going to be your first paying customer?
    • 最初に金を払ってくれる顧客になりそうなのは誰?
      • 論文がまっさきに出せそうなのはどの生物か
  47. If your startup succeeds, what additional areas might you be able to expand into?
    • このスタートアップが成功したら、次にどんな領域に手を広げてみたい?
      • そのまま
  48. How do you know people want this?
    • このプロダクトにニーズがあると分かる理由は?
      • 研究が論文になるという確信の理由
  49. Would you relocate to Silicon Valley?
    • シリコンバレーに引っ越してくる気はある?
      • まあ、これはその場所によりけり
  50. What do you know about this space/product others don’t know?
    • この分野で他人が知らず、きみだけが知っているのはどんなこと?
      • そのまま。
  51. How long can you go before funding?
    • 資金調達前にあとどのくらいの期間プロジェクトを続けられる?
      • そのまま。
  52. How will you make money?
    • どうやって金を稼ぐ?
      • そのまま。
  53. How much does customer acquisition cost?
    • 顧客獲得費用は?
      • 生物調達の費用
  54. How did your team meet?
    • チームのメンバーが出会ったきっかけは?
      • そのまま。
  55. Who in your team does what?
    • チームの役割分担は?
      • そのまま。
  56. How are you meeting customers?
    • 顧客と実際に会っている?
      • フィールド、とか?
  57. How many users are paying?
    • 有料ユーザーの数は?
      • 論文が出せている生物の数
  58. How is your product different?
    • このプロダクトが他と違う点は?
      • 研究が
  59. Are you open to changing your idea?
    • アイディアを変えていく心構えは?
      • そのまま。
  60. How do we know your team will stick together?
    • チームがこれからも団結していけると分かる理由は?
      • そのまま。
  61. What is your growth like?
    • 成長の具合は?
      • そのまま。

真剣に研究に打ち込んでいればすらすらと出てくることなのだろうなと思われる。