大学に入った頃に学んで、今も自分の基本的な思考のツールとなっているお作法に「禁止語」という考え方がある。苅谷剛彦『知的複眼思考法』にあったものだ。
もともとの概念の定義にはお構いなしに、何となく理解しているレベルで、こうした難しいことばを使ってしまう場合も少なくない。しかし、もともとの意味から離れて、こうした大きなことばを使ってしまうと、概念のひとり歩きが始まる。
その結果、こうしたキーワードは、容易にマジックワード(魔法のことば)に変わる。つまり、魔法の呪文のように、人々の考えを止めてしまう魔力を持っている。
これらのことばを使うことで、「何となくわかったつもりになる」場合が少なくない。これらは、使われる文脈を離れて、ひとり歩きをするビッグワード、マジックワードといえるのだ。
そこで、このようなことばを使用禁止にして、問題を考えてみる。教育の問題であれば、「個性」や「学力」ということば(キーワード)を 使わずに、語ってみる。
しかし、このように、別のことばでいい換えると、まどろっこしさを感じることもあるだろう。実は、まどろっこしいと感じた分が、そのキーワードを使うことで、考えずにすんでいる部分を示しているのである。これらの概念が重要でないといいたいのではない。むしろ、その重要さをわかって使うために、概念の厳密な使い方に注意する、そのための方法として、「禁止語=他のことばでのいい換え」という方法があるのだ。
なお、ここに紹介した禁止語のすすめは、社会学者の佐藤健二さん(『社会学・入門』宝島社)からヒントを得て、実際に私が学生を指導するときに使っている方法