講義をしたからには、評価をしなくてはなりません。
今回の講義では出席を兼ねた小テストに加えてレポート提出という評価を行いました。
美大生の一般教養としての生物学を講じるということは自分としても挑戦でした。
たとえば何か問題を出して解答させるとします。その答案が、生物学的にフォーマルな記述にするようにこちらとして教えるほどの時間と能力が足りませんでした。
範囲はほぼ生物学のすべてにわたり、そこで取り上げる話題自体が膨大になってくる。
フォーマルな記述、生物学の「てにをは」のようなものはある。例えていうなら、「ホモログ」「パラログ」「オーソログ」の違いのようなことは生物学者にとってみればことさらにいうまでもない自明な概念ではありますが、一般には決して共有されているわけではない*1。
それにはやはりある程度訓練が必要なのに、その時間を割くことは難しかった。わたしはそれよりもむしろ、生物学の諸相をイメージできることを努めていたところが半期ありました。
講義をすることがはじめてならレポートを自分で考案して出題することもはじめてでしたから、どういう問いにするかというのがまた挑戦でした。
「どうすれば美大生の生物教育になるだろうか?」
そう悩んだあげくにわたしが出題したのは、各回の講義どれかに対する「導入部」(アバンタイトル)のスクリプトを作れ、というものでした。
アバンタイトルといえば、アニメや映画で「タイトルロール」の前にいきなり上映されるシーンですね。
「シン・エヴァンゲリオン:||」であればパリのシーンです。
出題時、この課題に3つの採点基準を明示しました。
- 自分の経験やニュースなどの事例を含むこと。
- 講義内で取り上げられる内容が答えとなるような「問い」を設定すること。
- 1と2の間を適切につないで1000-1500字程度で記述すること。
要するに、レポートとしてはよくあるたぐいの「自分の経験をもとにXX字で論ぜよ」というものにほかなりません。
これは逆転の発想でした。
つまり、生物学上の何らかの問題を論じさせて「てにをは」を採点したいとは思えなかったわけです。それよりも、自分の足下の経験や事例をいちど生物学に照らしてみるという体験を提供したかった。
結果として、300名を超える提出がありました。いずれもしっかりと書かれていました。中には非常に胸をうつものもありました。
採点は結果として2週間たっぷりかかってしまいましたが、採点報告期限には問題なく間に合わせることができました。
*1:逆にいま読んでいる『精神と自然: 生きた世界の認識論 (岩波文庫 青 N 604-1)』にはこのことがなにかことさら重大であるかのように書いてあって「え、それパラログとオーソログの話やろ?」と思いながら読むことになって困惑したりしました。