「恋愛が苦手な人」への橋爪大三郎からのアドバイス

梅田望夫は「ウェブ時代をゆく」の中で「ほんとうの助言」がどういうものかを小林秀雄を引いて説明している。

心掛け次第で明日からでも実行が出来、実行した以上必ず実益がある。そういう言葉を、ほんとうの助言というのである

これは小林にあっては菊池寛の文学志願者への「外国語を学べ」という助言であったし、梅田にあってはいまウェブ時代を生きようとする若者への「ウェブ・リテラシーを学べ」という助言であった。ただ、「ウェブ・リテラシー」というのはその次のページに解説されているとはいえ、ちょっと索漠としすぎている。
さて秋葉原血の日曜日でかなりクローズアップされた「彼女がいれば」という叫びに対して「風俗に行けば」とか、果ては「幸せな思い出があったら人殺しはないからそういうサービスを作ろう」なんておめでたい考えをする人がいる。この件に関して私も25年彼女はいなかった=(百年の孤独)÷4であり「彼女がいればもっと楽しいだろうな」と思ったことは一再ならずあった。
その中でもう10年ほど前からか、橋爪大三郎のこの本の中の、「恋愛が苦手な人」への助言を何かと気にしてきた。

民主主義は最高の政治制度である

民主主義は最高の政治制度である

これに収められている「本当の愛がみつからない理由」の一節だ。
橋爪は、西洋と日本の「愛」の観念の差異を解説したり、多くの人にとって訓練しないと恋愛はできないものだし多くの人は失恋を通じて訓練を果たすとか、昔は日本でも若い衆というコミュニティがそうした教育をしてきたとか説明する。このエッセイ自身、全体を今読み返しても鋭い切り口にハッとするし、この本自体も内容が詰まっていてとてもおすすめだ。

  • 愛が一種の選択なら、この人しか選択できないというのが、究極の愛ですね。…
  • …そもそもそういう確信がもてるためには、人間ひとりひとりが十分違っていなければならないはずです。…
  • 互いの個性や、その人にしかない輝きを見せあうチャンスが、恋愛を育てるプロセスには織り込まれていなくちゃならない。そういうチャンスを生かす方法、出会いを育てる文化が、日本ではとうとう根づかなかった。…
    • pp.230-1

愛はもともと、社会の中には完全に位置づかないところがある。特定の相手だけを大事にするのは、反社会的な行為ですからね。
p.235

荒っぽく言うと、愛を教育するための制度が存在しない日本は消費社会によってその混乱が余計に露呈したんだという。あと、愛なんて社会学者に聞くんじゃねえよ、とか言いたそうだ。そして制度を否定することが一個人レベルでは出来ない以上、そこには解決策なんてないのだ。

ロジカルマシーンのアドバイス

そこで橋爪は突如、「具体的な人間にかかわる訓練」を提示する。それが以下の文章だ。

だから、恋愛が苦手な人は、まず異性の友人を一〇人以上作ることを出発点とすべきなんです。ただの友人でいい。友人というのは、じゃあねと別れて、つぎに用があって連絡する時まで、相手のことを知らなくていい関係をいう。だから財産のように、人数を増やせるんです。なおかつ、人格的なかかわりはいくらでも深められる。
p.235

これこそ「ほんとうの助言」である。
これでは分からない人にはわからないのかもしれないし私にもずっと分からなかった。「何人つくればいいんですか? 二十人ですか? 三十人ですか? わかりません><」という声も聞こえてきそうだ。でもそうじゃないんだと思う。ここで橋爪は助言を論理的に導き出すことを放棄しているかのように見える。必要条件ということだろう。「異性の友だちが何十人出来ても恋愛が出来るようになるとは限らないけれど、恋愛ができる人はたいがい異性の友だちがいて、一方で恋愛が苦手な人は異性の友だちがさっぱりいないことが多い」という身も蓋もない観察に負っているような気がする。
あと、異性の友人の条件としては、これかなり当然なことかもしれないけど、一方でおかしいと思う人もあるかもしれないけど「最初からセックスを目指してはいけない」などあるかもしれない。だから「人格的なかかわり」を深める、お互いに知り合う、ただ知り合う、それで楽しい時間を過ごす、それだけ。同性の友人と同じ水準で遇する。異性同士ということで当然、次のステージに入るのもアリアリではあるんですが、それはまた別の話ということで分けて考えよう。それに、そういうので楽しい時間を過ごすことが出来なくては、たとえば恋人が出来てもヘンな風に寄りかかってしまって結局ねじくれてしまいそうだ。不健全ということもないんだけど、依存しあいは「人間ひとりひとりが十分違って」いる、つまり独立な個人同士の関係にならない。

追記

非モテに自己責任論はなじまないも全く同じ枠組じゃないかと思うのでトラバ。
http://anond.hatelabo.jp/20090713021256にも。